続・本を読むご主人様

今更ながら、前「芥川賞」の『影裏』 沼田真佑氏の作品です。
景裏とは日光の当たらない所を意味するそうです。
主人公は釣り好きで二年前から岩手県に赴任になる。友人もいなく孤独な30代の男性である。ある時、釣りを通じ一人の男性に出会い、仲良くなり、そのアウトロー的な友人に不思議な興味を覚えるのだが・・・
文体がとても滑らかで素晴らしかった。自然描写が美しい。どのページも静かでそよそよと風が吹いている。そんな感じでした。さほど、長くなかったので、あっという間に読めました。結末はちょっと悲しいのではあるが、読後感は良かった。とご主人様。本の中にはLGBTや東日本震災にも触れており、岩手の方言も含み、その土地の人でなければ分からないものがあると感じさせた。
ある評論家は東日本震災で失える大切な人がいなかった人の話。と解釈したそうですが、題名の通り、表通りではなく、影を歩き日の光が入らない人々の寂しい話で、本当は陽だまりが欲しくてたまらないのに・・・そんな気持ちが愛おしく感じとれました。
それにしても、昨年、新人賞を取り、そして芥川賞です。凄いですね。やっぱり才能があるのでしょう。

この作品を読んだ後、思わず、佐藤泰志氏の「そこのみにて光り輝く」を思い出しました。
この作品は「もがいても、もがいても足元の泥沼から這い上がれない。それでもかすかな光のために生きることを忘れない。」同じように光が当てられない人々を描いており、非常に苦しい小説です。映画にもなりましたね。
さて、この佐藤泰志氏は文才豊かな方で、芥川賞を5回も候補になるも、結局その夢はかないませんでした、そして、自ら死を選んだそうです。
最近は映画化も始め、その文学はかなり再評価されているらしいです。ちゃんと光はあてられていたのです。良かった!
一つの賞を巡り、いろんな人生があり、そのおかれた時代もあるのですね。