ご主人様の本便り

 寒くなりましたね。ご主人様はオイルヒーターと加湿器、そしてあったか布団を出しました。これからは「冬」への気構えです。

 さて、詩人の谷川俊太郎氏の訃報がありました。素晴らしい詩人でした。分かりやすい文章に中にひとつひとつの言葉は深く、遠い世界に導きます。そして最後に見える光は「優しさ」。どれほどの愛を頂いたかしれません。とご主人様は言っておられました。

 ご主人様はあまり読んではいないのですが、好きな詩がありご紹介させていただきます。

「朝のリレー」です。

 これを読んで世界はつながっていて、自分もその一人だということを嬉しく思ったものです。朝はすべての者に公平でそして自由であると…

「朝のリレー」
カムチャツカの若者がきりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女がほほえみながら寝返りをうつとき
ローマの少年は柱頭を染める朝陽にウインクする

この地球ではいつもどこかで朝がはじまっている

ぼくらは朝をリレーするのだ

経度から経度へと 
そうしていわば交替で地球を守る

眠る前のひととき耳をすますと 
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴っている

それはあなたの送った朝を 
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ。

そしてもう一つの「朝」は生きることは死ぬこと。そして死は生きることなのだと背中合わせであることが人生なのでしょう。生きていることはすべてのものに感謝しかありません。

「朝」
また朝が来てぼくは生きていた 
夜の間の夢をすっかり忘れてぼくは見た
柿の木の裸の枝が風にゆれ
首輪のない犬が日だまりに寝そべっているのを
 
百年前ぼくはここにいなかった
百年後ぼくはここにいないだろう
あたり前なところのようでいて
地上はきっと思いがけない場所なんだ
 
いつだったか子宮の中で
ぼくは小さな小さな卵だった
それから小さな小さな魚になって
それから小さな小さな鳥になって
 
それからやっとぼくは人間になった
十ヶ月を何千億年もかかって生きて
そんなこともぼくら復習しなきゃ
今まで予習ばっかりしすぎたから
 
今朝一滴の水のすきとおった冷たさが
ぼくに人間とは何かを教える
魚たちと鳥たちとそして
ぼくを殺すかもしれぬけものとすら
その水をわかちあいたい

 

「二十億光年の孤独 」谷川俊太郎 著

ご主人様は今日、この詩集を読むと言っておりました。素晴らしい詩集です。

心よりご冥福を申し上げます。