このところ、突然の雷やゲリラ豪雨があって、黒い雲が近づくと、大丈夫だろうかと心配になってしまいます。数日前は夜中に雷が大きく音を立てており、思わず目が覚めてしまいました。秋田や山形でも大雨が続いているようで、本当に心配ですね。
さて、ご主人様の本便りです。幾つか読んだものをご紹介いたしますね。
まずは「青い壺」有吉佐和子 著
ある陶芸家が生み出した青磁の「青い壺」。美術の専門家に買われ、デパートに展示されることになる。それから、その壺は幾人かの手に渡り、旅をするのです。やがて、その壺は美しく、深く、内から流れ出すような艶を持ちながら、素晴らしい名品となり作者のもとに帰ってくる。というお話ですが、何とも素敵な小説で、人生を語っているように感じました。とご主人様は言っておられました。
いろいろな人と出会い、いろいろな場所を知り、やがて大人になっていく。まさに人生です。しかも、人々の生活に翻弄されながら、美しく輝くのですから「青い壺」は素晴らしいです。
有吉佐和子氏といえば「恍惚の人」で有名ですね。その当時は老人ボケと言われ、タブーとされていたことをテーマにした小説です。今やそれは「認知症」と言葉になり、誰もが知り、誰もが身近に感じる病になりました。小説として新しい時代を切り開いた作品です。
「青い壺」はもう50年も前の作品ですが、全く、その古さを感じさせず、そこが凄いですね。
「明日の記憶」萩原浩 著
こちらはその認知症の話です。広告代理店に勤める主人公は齢50にして若年症アルツハイマーと診断されるのです。少しでも仕事を続けたい。愛する家族を守りたい。忘れたくない。と、藻搔きながら日々を送るのですが、それはあまりにも痛々しく、ご主人様は「明日がわが身」という思いで読むと本当に苦しい気持ちが伝わってくると言っておりました。でも最後には優しさが頁のところどころに表れて、気持ちはすっと楽になったそうです。力作ですね。
「パリの砂漠、東京の蜃気楼」金原ひとみ 著
幼い娘たちを連れてのパリの6年間の生活。そして帰国して東京での生活。二つの都市を舞台に描かれたエッセイです。
パリのエッセイはさぞかし、オシャレで楽しいものかと想像していたのですが、その期待をよそに、寧ろ、心をむき出しにした辛辣なエッセイでした。
その時折の心模様をまるで爆発させているかのように書いていて、それが、実によく分かるのです。自ら発信する苦しみは、きちんと生きたいと願うからなのでしょう。そういう意味で共感できる作品でした。金原ひとみ氏は文章が素晴らしいですね。好きな作家です。とご主人様。
「ベットタイムアイズ」山田詠美 著
以前の本便りでご紹介した小川洋子氏の「妖精が舞い降りる夜」の中で、いくつか本を挙げていたので読んでみました。
「ベットタイムアイズ」は山田詠美氏のデビュー作で30年以上前の小説です、今更、読むなんてお恥ずかしいという気持ちですが、大変面白い小説でした。その当時は性愛とかメイクラブのシーンが評判になりましたが、勿論、驚くような刺激的な文章ではありますが、それよりも、一人の女性が好きな男をとことん愛したい。そういう女に、愛される女になりたいという切実な純な気持ちに惹かれました。少年が大人になって、いい男になりたいように、少女もいい女になりたいのです。でもその純粋さゆえに傷つけあうこともあるのですね~。見事な小説でした。
「愛の生活」金井美恵子 著
これも、そのエッセイにあったものです。
夫がいる私は、まだ若い女性である。時々、私は夫をちゃんと愛しているのだろうか?と疑問を抱くようになるのです。これも、「ベットタイムアイズ」のように、好きな人をきちんと愛したいと思っているのですが、思えば思うほど、「夫を愛していない」ように感じてしまうのです。心の中の葛藤は愛するゆえか、あるいは若さゆえの未熟さか。読んで良かった小説でしたよ。単行本がなく短編集の中から読みました。
そして、「水と出会う場所」魚水陽子 著
仲の良い夫婦がいる。だが妻は日によって体調が悪く、重い病かもしれないと感じている。夫はそんな妻を励ましながらも、心に思う女性がいる。妻はもしも、自分が死んだら、夫はその女性と仲良くなれば良いと願う…
そんな男女の何気ない機微を描いているのですが、題名の通り、文章が水のごとく滑らかで「水」を感じられる小説でした。
読書は好きなのですが、この暑さですからね~。ご主人様はなかなか思うように読めていないようですよ。今日はこの辺で。