二月大歌舞伎!

一昨日に、團十郎さんの告別式がありました。
何でも辞世の句を詠んでいたとか・・・
「色は空 空は色との 時なき世へ」と。
形あるものはいつかは壊れてゆく。人も欲望を捨て、無となり、やがては空に向かう。と言った意味だと解釈している。
いつだったか、團十郎さんのインタビューをみていたら、何でも、若い時に大病を患い、その時に死の恐怖を味わい怯えたそうだ。だが、ある時、ふと、死は怖いものではないと悟ったというのだ。その時、きっと、神様と会話していたのだろう。それからというものは、死に向かう旅を続けていたのかもしれない。
團十郎さんは若くして父を失った方であるが、こんなことも言っていた。「親が早く逝ってしまったから不幸なのでしょうか?親が長生きすれば幸せなんでしょうか?お金持ちだから幸せで、貧乏だから不幸なのでしょうか?そんなことはありません。とにかく、今の自分の世界で一生懸命生きればよいのです。親がいなければ親を超えればよいのです。誰に褒められなくとも、自分に嘘がない人生は、実に堂々と潔く素晴らしいではありませんか!」と。
團十郎さんは海老蔵さんと初めてお酒を飲んだ時に、「嬉しいよ!まさかお前と一緒に酒が飲めるとは!」と喜んでいたそうである。
海老蔵さんの挨拶もとても立派だった。だが「親孝行したい時には親はなし」。その無念さを今、深くかみしめているのだろう。悲しみや悔しさを滲ませた、そして、覚悟を決めた挨拶だった。
大黒柱を失ってしまったけれど、大御所と呼ばれる藤十郎さん、菊五郎さん、吉右衛門さん、仁左衛門さん、そして、もう一人、幸四郎さんに頑張って頂きたい。
と言う事で、久々に幸四郎さんの歌舞伎を見に行きました。
まずは「口上」。
歌舞伎役者というよりは父としての口上でありました。染五郎さんの怪我で心配を頂きましたこと、そして、元気に復帰したこと、これからも精進すること等・・・お詫びとお知らせと感謝の内容だった。今回の芝居は染五郎さんの復帰祝いなのだ。
幸四郎さんは染五郎さんの事故の際、「覚悟した」と。息子はもう駄目かもしれない。死の覚悟をしたと言っていた。歌舞伎役者がそういうからには、それは、壮絶な様子だったのだろう。團十郎さんと同じで、「大切な者を失う死の恐怖」を味わったに違いない。だから、こうして、同じ舞台に立ち、歌舞伎が出来ることにこの上もない幸せを感じていたと思う。
歌舞伎役者の方は、普通の役者と比べ、とにかく、セリフを覚えるのも、舞を覚えるのも数倍早く、染五郎さんが比較的早い時期に復帰できたのは、日頃から体を使い、鍛練しているからで、驚異的な回復だそうである。
今回のお芝居は、元気になった染五郎さん、そして金太郎さん、親子三代見れるのだ。なので、とても楽しみにしていたご主人様。
さて、お芝居ですが・・・まずは「吉野山」。義経千本桜のひとコマである。壇ノ浦の戦いで平家が破れ、抜群の手柄を立てた義経に朝廷は「初音」という鼓を恩賞として与えるのだが、この鼓には「鼓を打つ」という言葉に事を寄せ、「頼朝を打て」という内令が含まれていたのだ。それにより、謀反の疑惑をかけられ、義経都落ちを強いられる。その際に「初音」を愛妾の静御前に家臣の佐藤忠信には自らの鎧を形見として与えるのだった。
芝居ではその二人が、人目だけでも義経に会いたいと追いかける場面。静御前は鼓を打つと、何故か、佐藤忠信が現われる。実はこの佐藤忠信は狐の化身。鼓の皮はその子供で、愛しい子に会いたいとばかりに化身していたのである。
見どころは福助さんの静御前の美しさ。そして、染五郎さん演じる佐藤忠信が時々、狐になるところである。ふとした瞬間に子を思う親狐になり、ある時は凛々しい武士になるのだ。この風情や仕草が楽しい。狐と言えば、猿翁さんや勘三郎さんが有名ですが、染五郎さんの狐も、勿論、素敵でした。
続いて、「新皿屋鋪月雨暈」。何となく題名から、怪談の「播州皿屋敷」を思い出しそうですが、それとは違いますよ。
福助さん演じる「お蔦」が、悪者にいわれなき無実の罪を着せられ、手打ちとなってしまう。そのお兄さんが幸四郎さん演じる「魚屋宗五郎」。事実を知った宗五郎は、あまりの悔しさに「酒でも飲まなきゃやってられない!」と禁酒の封印を解き、飲むのだが、もともとは酒好きである。底がなくなるまで飲むのである。酒の量に合わせ、酔うさまがこの芝居の見どころ。幸四郎さんは見事に演じておりました。本当に楽しかった。
幸四郎さんは歌舞伎だけでなく、ミュージカルやシェークスピア劇でも有名で、何でもこなせる役者。團十郎さんは初めてのシェークスピア「オセロ―」を、勘三郎さんは親子三代の芝居を楽しみにしていたそうである。きっと、何でもこなす名優であり、親子三代の芝居も経験した幸四郎さんを、羨ましく思っていたのでしょうね。
幸四郎さんの「口上」の最後は新・歌舞伎座への期待と挨拶で締めくくられていた。この前、ちょっと見ましたが、もう完成していて、高いビルはあるものの、門構えは昔と一緒。早くも楽しみなご主人様。
春には歌舞伎界にも朗報が待ちかまえているという。でも朗報の一番乗りは何と言っても、染五郎さんの元気な姿なのだ。