ご主人様の本便り

 早春と言えども、風は北風・冷たい雨もあり…季節は行ったり来たりしていますね。

 さて、ご主人様の本便りです。いくつか読みましたので、まずはご紹介いたします。

 「スキマワラシ」 恩田陸 著

 心の隙間に見えるその影はもしかすると、知られざる家族の絆。過去へのいざなう旅の始まりかもしれません。心がほっくりする小説でした。

 「あなたの愛人の名前は」  島田理生 著

 幸せだと思ってたのはそうありたいと願うからでしょうか? 心の奥にあるかすかな欲望。それは愛。あなたの好きな人はと問われ、思い浮かべる人は誰ですか?短編集ですが、人は生きるために小さな噓をつく。だけどそれは仕方ないのだと、そんなことを思いました。

 「赤い月の香り」 千早茜 著

 「透明な夜の香り」だったかな?その続編です。自分だけの香りを見つけに、ある調香師のところに訪れる人々の物語です。

 読んでいる時間は静かな、真っ白な雪景色の中、誰ひとりの足跡すらない、まるで音のない世界を感じます。アロマのことも詳しく書かれていて、アロマ好きのご主人様としては楽しい本でした。この空気感が良いです。大好きな作家です。

「この世の喜びよ」井戸川射子 

 芥川賞の作品です。喪服店で働く高齢の女性。ある日、若い十代の女の子と知り合います。その女の子を通じて、自分の過去、家族、娘たちのことを思いだしている話です。神の視点で描かれており、主人公のことは「あなた」となっていて、また、話が急に変わったりと、ちょっと読みにくい小説でした。でもそれがきっと良いのかもしれませんね。文章は詩的で素敵です。著者は詩人のようですね。

泉鏡花 短編集」

 古いしきたりの中、見えない壁に囲まれ、不自由に、そして結婚は家の問題で、個人の尊重などない時代の作家です。求めていたのは愛の自由です。

 泉鏡花の本はライアンの本にもいくつかあったのですが、ご主人様は読んでおらず、これは現代語に直したものです。本当にさらさらと気持ちよく読めました。

 あゝとため息が出るほど、美しいお話でした。純粋な愛ほど、心を満たすものはありません。流石に素晴らしいです。

「乙女の教室」 美輪明宏 著

 美輪氏のエッセイですが、すべてがなるほどと唸らせます。ご主人様は昔から美輪明宏氏が好きで、よく読んでおります。テレビも見ていますよ。「愛のもやもや相談」とか。仰ることは昔から変わりません。「美しいものを見なさい。音楽とか、芝居とか芸術とか、世界の人たちが大事にしていた文化を見なさい」と。

 すでにおばさんの域のご主人様ですが、乙女心を無くしてはいけないと悟ったそうです。そういえば、以前、美輪氏は「泉鏡花を読みなさい」と言っていたことを思いだしました。

「ザリガニの鳴くところ」 ディーリア・オーエンズ 著

 人気があったミステリーです。親からも見放され、一人暗い森で暮らす孤独な少女、ガイア。ある時、ある少年から読み書きを教えてもらいます。それをきっかけに学ぶことの楽しさを覚えます、やがて時が過ぎ、ガイヤは賢く、美しい女性に成長するのです。そんなとき、ある殺人事件が起きガイヤはその容疑者となってしまうのですが…

 まず、自然の描写が素晴らしい。作者は動物学者でこれは69歳で初めて書いたミステリーだそうですが、植物、動物たちの自然のなかの掟など、残酷なほど、丁寧に描かれています。何よりも、何も持たない孤独なガイヤの逞しく、強く生きていく成長ぶりに心が揺れました。結末は…それは内緒です。ミステリーですからね、とご主人様。

 「ゼラニウム堀江敏幸 著

 フランスで暮らすある男性からの視線で、そこで出会う女性たちとその出来事を描いています。まるでフランスの小説のようだと思っていたら、作者はフランス文学者で、成程だと頷けました。描写は素晴らしく美しい。いろいろな国の女性が登場し、その世界感が良いです。自分自身がそこにいるような気さえ致しました。

「甘いやかな祝祭」

 田辺聖子氏、小池真理子氏 藤田宣永氏など…いろいろな小説家が描いたアンソロジーです。いくつか読んだことがありますが、どれもは素晴らしい小説の短編集でしたよ。

 まだあるのですが、今日はこの辺で。窓の外は北風です。南の風はこれからかな?とご主人様でした。